ジェイコムが打倒イー・アクセスで無線サービス(2006年1月)

ウィルコムのPHS回線を活用

ジェイコム(J:COM、ジェイコム)は、3月1日にPHSサービス「J:COM MOBILE」を開始します。提携したウィルコムのPHS回線を再販する形でサービス提供します。イーアクセスやソフトバンクへの対抗策とみられます。島田雄貴記者が報告します。

ケーブルテレビとセットで月2625円

J:COMのケーブルテレビなどの既存サービスとセットで加入すると月額基本使用料2625円(ウィルコム定額プランは同2900円)の割引料金を適用する。

とくとく・トークMOBILE

2台目以降は同2100円の料金になる。優遇通話料金「とくとく・トークMOBILE」を設定。PHSからJ:COM固定電話の通話で最大125分の無料通話分を含む。同社PHS同士やウィルコム加入者間では無料になる。PHS端末は京セラ製「WX300K」のオリジナルデザイン(2色)。

ソフトバンクなどADSL業者と差別化

J:COMはケーブルテレビ、インターネット接続、固定電話のサービスを提供。今回のPHSサービスを第4の「グランドスラム・サービス」と位置付け、固定通信と移動体通信の融合を進める。イーアクセスやソフトバンクのADSL、光ファイバー接続サービスとの差別化を図る狙いがあると見られる。

島田雄貴の用語解説「クアドロプルプレイ」(2006年1月)

島田雄貴記者による「クアドロプルプレイ」の用語解説です。

トリプルプレイ+携帯電話

固定電話、インターネット接続、映像サービスのトリプルプレイに、携帯電話を加えたサービス形態。技術的な用語ではなく、米国での事業者間のサービス競争の過程で生まれた言葉。日本で最初に提供するのはジェイコムで、2006年3月から開始する予定である。

イー・アクセスも参入

「クアドロプルプレイ」は、「トリプルプレイ」から派生した用語である。ブロードバンド用の1本のアクセス回線で、インターネット接続とテレビ放送などの映像、電話の3サービスを提供するのがトリプルプレイ。ここに第4のサービスとして携帯電話などの移動体通信を加えたのがクアドロプルプレイである。携帯電話への参入を進めるイー・アクセスやソフトバンクも、このクアドロプルプレイを実現したい考えだ。

グランドスラム

クアドロプル(quadruple)とは英語で4倍や4部を表す単語。クアドルプルプレイ、クアッドプレイとも言う。4種のサービスを一挙に提供することを野球の満塁ホームランに例えて、グランドスラム(gland slam)と呼ぶこともある。

「電話会社」対「CATV会社」

そもそもクアドロプルプレイは、米国のケーブルテレビ(CATV)事業者と地域電話会社(RBOCと呼ぶベル系地域通信事業者)の競争の構図から生まれた言葉。米国の通信事業者間競争は日本と異なり、ケーブルテレビ事業者が強い。アクセス回線シェアでは、ケーブルテレビ事業者が全体の約3分の2を占める。それに加え、ケーブルテレビ事業者はもともと映像サービスを提供している。トリプルプレイでは地域電話会社よりも競争上優位な立場にあった。

携帯電話サービスを持つ強み

一方、米国の地域電話会社は、映像サービスには弱いが、自社グループに携帯電話サービスを持つ強みがある。そこで地域電話会社が携帯電話サービスを組み合わせて提供すれば、ケーブルテレビ事業者よりも優位に立てる。こうした構図から、携帯電話サービスがトリプルプレイにくっつけられたのだ。

J:COM MOBILEでイー・アクセスとの競争激化

ケーブルテレビ事業者側も、競争上それに追随。地域電話会社と資本関係のない独立系携帯電話事業者と組んで、再販する事例も出始めた。日本では、ケーブルテレビ事業者のジェイコムがウィルコムと提携。インターネット接続、映像、電話に続く4番目のサービスとしてPHSサービス「J:COM MOBILE」(仮称)を2006年3月から提供する予定で、いち早くクアドロプルプレイを実現する。ライバルのイー・アクセスとの競争が激しくなりそうだ。

MVNOの参入業者続々、イー・アクセスなど(2008年12月、島田雄貴)

他社回線借り独自サービス 初期投資少ない利点

通信会社から回線を借りて、独自の通話やデータ通信のサービスを展開する「仮想移動体通信事業者」(MVNO)が増えてきた。携帯電話端末の世界最大手、ノキア(フィンランド)が来春参入するほか、イー・アクセスやPHSのウィルコムも活用する方向で検討に入った。利用者にとっては選択の幅が広がりそうだ。島田雄貴記者が、業界の動向をお伝えします。

ディズニーがソフトバンクと提携

MVNOとしては、ウォルト・ディズニー・ジャパンが今年3月から、ソフトバンクモバイルの回線を借りて始めた「ディズニー・モバイル」などがある。すでに20社以上が参入し、安否確認などの特定のサービスやデータ通信事業を展開している。

NTTドコモなどの通信設備を利用

通信事業は基地局などに巨額の投資が必要で、新規参入の壁が高い。MVNOは、NTTドコモやイー・アクセスなどの通信設備を利用できる分、初期投資が少なく済む利点がある。その一方で、採算が合うかどうかは通信会社が示す貸し出し条件次第という課題があった。

日本通信とドコモの交渉決裂

参入業者が増え始めたのは、昨年11月にMVNOの日本通信とドコモの交渉決裂を受けた総務相が、ドコモ側に貸し出し条件の透明化を求める裁定を下してからだ。総務省は5月、MVNO側が交渉で不利にならないように手続きなどの指針を改定。設備を貸す側の通信会社が標準的な貸出料金や条件を公表するようになり、参入計画が立てやすくなった。

ノキアは富裕層向け

イー・アクセスはMVNOへの全面的な協力を決めている。ノキアは来春、ドコモの回線を借りて富裕層向けの高級携帯端末で携帯事業に参入する方針。ウィルコムは来年からドコモの回線で高速データ通信サービスの提供を検討している。通信速度で見劣りするPHSを補い、来秋からの「次世代PHS」の本格スタートまで、顧客をつなぎとめる狙いだ。

キーワード
MVNO

仮想移動体通信事業者(モバイル・バーチャル・ネットワーク・オペレーター)の略称。無線基地局などの通信回線設備を持っていない「仮想」の通信事業者をさす。通信会社に利用料を払って通信回線を借り、独自の端末や料金体系でサービスを提供する。

MVNOが展開する主なサービス
MVNO(サービス名)サービス概要
日本通信(b-mobile3G)150時間の通信料金を含んだ通信端末
象印マホービン(みまもりほっとライン)ポットに通信機を内蔵し、情報を携帯で確認
トヨタ(G-BOOK)オペレーターによる目的地検索など
セコム(ココセコム)全地球測位システムで迷子やお年寄りの位置把握
ウォルト・ディズニー(ディズニー・モバイル)ディズニーのブランドを活用した携帯電話
NECビッグローブ(BIGLOBE高速モバイル)高速データ通信
IIJ(IIJモバイルサービス)法人向け高速データ通信
ジェイコム(J:COM MOBILE)PHSの再販
ニフティ(@nifty MobileP)PHSカードでのデータ通信

日米間の技術開発事情(1991年、島田雄貴)

民生・軍事両用技術による新たな側面

デュアルユース・テクノロジー

かつて軍事技術は技術の頂点に位置し、民間への技術波及の源泉であったが、1980年代後半にかけての技術革新の主体は民生分野で、軍事抜きに自己増殖的に進展し、数々のハイテク技術を生み出してきた。 ハイテクのなかでも軍事に転用可能な両用技術(デュアルユース・テクノロジー)は注目の的だ。

FSX

次期支援戦闘機(FSX)の共同開発問題が日米外交交渉で最初に前面に出てきたのもその現われである。 このような民生・軍事両用技術の中心領域にエレクトロニクスがあり、アメリカが遅れをとった相手が日本ということになる。 今後、技術安全保障の考えがアメリカで強まるにつれ、この種の両用技術の出番も増えよう。 軍事力と同様、大きな影響力を持つ技術力の行使には重い責任が問われ、民生技術で伸びてきた日本にとって、これが新たな摩擦のタネになりかねない。

アメリカ、日本のハイテク技術に危機感

アメリカのハイテク産業は対日赤字

アメリカが、日本のハイテク技術に危機感を持ち始めた2つの事実がある。 第1は、1986年に、アメリカのハイテク産業(研究開発費の対売上高比の高い業種)の貿易が赤字になった。 その内容を分析したら、日本を除くと300億ドルの黒字だが、対日赤字で消されてしまったことがわかった。 ハイテク製品赤字は日本のせいだという意見が強くなった。

日本企業が米国特許を多数取得

第2は、1988年のアメリカ特許取得上位10社をとると、そのうち6社が日本企業となったことである。 アメリカの対日赤字の中心になるのは、新しい開発製品である。

日米ハイテク貿易の格差

VTR、ファクシミり、電子カメラ、超LSI記憶素子など、ほとんどアメリカでの生産能力がゼロに近い製品が多いので、日米ハイテク貿易の格差は縮まらない。 軍事と基礎研究に集中し、開発と生産を放棄していては、立ち直りは無理だろう。

世界の主要企業が熾烈な競争を展開(1992年、島田雄貴)

リージョナル・マーケットの形成

アメリカ、アジア、ヨーロッパの三大経済圏

今日、世界の市場は、アメリカ、アジア、ヨーロッパの三大経済圏(リージョナル・マーケット)形成に向かいつつある。
世界の主要企業は、それに対して着々と布石を打ちつつある。

現地での需要に合致した製品を生産・販売

その特徴は、特定地域内で研究開発、マーケティング、生産を一貫して行い、現地での需要に合致した製品を生産・販売し、市場を確保するというものであり、従来のコスト格差をめどとした海外展開、あるいは営業拠点の確保といった次元を超えたものになるであろう。

エクセレントカンパニー

事実、三菱総研がアメリカのエクセレントカンパニーにヒアリング調査を行ったところでも、彼らの戦略は、金利、為替などの要因に応じて海外進出を考えるというよりも、むしろ市場が拡大するところで、生産をして販売するというポリシーである。
この傾向は1984年以降先進国において顕著に現われている。

国境を越えての資本の移動

三極体制、四本社制
コンシューマー・エレクトロニクス製品

日本においては、量産型・組立て系製造業種が先行しようとしている(コンシューマー・エレクトロニクス製品など)。
今日、日本で、三極体制、四本社制といった言葉が多く使われるようになったのも、その証左と見ることができよう。

投資摩擦の比重が上昇か

今後輸出入は、資本移動の補完に将来の輸出入は、海外直接投資を補完するという位置づけとなり、限られた部品、資本財の進出先への供給という形態に変化してくることが予想される。
したがって、今後各国間の摩擦は、輸出入規制のウェイトが低下し、投資摩擦の比重が上がってくることとなろう。

資本移動の適正なルールづくり
グローバリゼーション
P・ドラッカー

その面で、国際間で資本移動の適正なルールづくりが急がれるわけである。
グローバリゼーションとは、P・ドラッカーが述べているように、「国境を越えての資本の移動」である。

インターナショナリゼーション

従来のインターナショナリゼーション(国際化)とは、物やサービスの輸出入を主として考えていた。
今後、企業のいっそうの事業規模の拡大、通商摩擦、為替変動への対応を考えると、グローバリゼーションという形態になる。
それは、資本が移動し、マネジメントシステムまでを含んだ開発・生産・マーケティングの一貫した経営そのものの移転に移行していくと思われる。
今後1990年代世界の主要地域で、主要企業が地域内部で独自の経営ノウハウをもとに、熾烈な競争を展開することになる。

歴代の「ICT事業奨励賞」の受賞者

通信業界で活躍した人を表彰する「ICT事業奨励賞」の歴代の受賞者のリスト(一覧表)です。通信分野の新しいサービスや商品の普及に貢献した人が対象です。一般社団法人「電気通信協会(TTA)」が主催。2001年に始まりました。2013年までは「ICT事業奨励特別賞」という名称でした。毎年5月ごろに発表されます。(島田雄貴)

2010年代

年度 受賞者 所属 理由
2017 中村浩
(なかむら・ひろし)
NTT東日本 NTT東日本が2014年12月に開始した中堅中小企業向けマネージドWi-Fiサービス「ギガらくWi-Fi」を提供する部門の責任者として活躍。同サービスの約5万件(2017年3月末)の導入に貢献した。
2016 谷口裕昭
(たにぐち・ひろあき)
NTTスマイルエナジー NTT西日本に在籍していたとき、自社のネットワーク技術と、オムロンの遠隔操作技術を組み合わせ、家庭の太陽光発電の発電量やトラブルを把握するサービスを開発。2011年に専門の新会社「NTTスマイルエナジー」を両社で設立し、自ら社長に就任した。大ヒットした主力商品「エコめがね」により、太陽光発電のトラブルをいち早く見つけることができるようになり、省エネにも貢献した。
2015 中村寛
(なかむら・ひろし)
NTTドコモ VoLTEの開発と導入を指揮し、日本で最初のVoLTEサービス開始を成功させた。
永田勝美
(ながた・かつみ)
NTTぷらら 家庭の光ファイバーを使ってテレビを視聴するIPTVサービス「ひかりTV」のサービスを開始。会員300万を達成した。テレビなどのマルチデバイスへのサービス展開を推進。IPTV技術の標準化や業界横断的な取り組みにも貢献。
2014 岡本充由
(おかもと・みつよし)
ミライト・テクノロジーズ インターネットラジオの普及に貢献。日本初のIPサイマルラジオ「radiko.jp」をリスナー1,300万人の人気サービスに育てた。
西本裕明
(にしもと・ひろあき)
住友電工ネットワークス 「OCNシアター」、「4thメディア」用IP-STBを提供し、IP映像サービス開始に貢献。さらにNGNサービス開始と同時に「ひかりテレビ」向けのセットトップボックス(IP-STB)として「PM-700」の提供を開始。世界的にも先進的なIPTVサービスを実現した。地デジ・BS放送受信機能を持つメディアサーバの開発など、日本における高度なIPTVサービスを実現するSTB実用化・普及のリーダーとして活躍した。
2013 溝江准
(みぞえ・じゅん)
NEC NECにおいて、マイクロ波アクセス無線通信装置(パソリンク)の開発グループリーダーとして、屋外無線装置を開発し、10年に亘り、年間世界トップや2位のシェアを獲得。マイクロ波アクセス無線装置は防災無線などの用途に広く活用されており、災害対策用インフラとして社会に大きく寄与貢献した。
中村武宏
(なかむら・たけひろ)
NTTドコモ 携帯電話のLTEのベースとなる「Super3G」を具現化するため無線アクセス技術の開発を指揮し、広帯域高速伝送を世界で初めて成功させ、国内外での急速なLTEの普及させた。また、LTEの技術的実現性について実証し学術的な貢献をするとともに、通信事業者では世界第一位の必須特許数をNTTドコモから提出するなど、事業的にも大きく貢献した。